ゾルピデム(マイスリー)と認知症

日常よく使われるゾルピデムが脳に老廃物を蓄積させて認知症を引き起こす恐ろしい睡眠薬であるという記事を読みました。

このネット記事の元になる論文はNorepinephrine-mediated slow vasomotion drives glymphatic clearance during sleep.”という題で”Cell”という英文誌に載ったものです。この論文はオープンアクセスではないので一般の人は読むことは困難です。そこで、ゾルピデムの部分に関してだけ、解説します。

この論文はかなり専門性が高く、この論文を読むためには多くの基礎的な知識が必要です。論文の主旨は”脳に溜まった老廃物などを運び出す仕組みが、ノルアドレナリンという物質を介した緩やかな血管運動によって行われている。ゾルピデムはマウスにおいて睡眠中のノルアドレナリン活動を低下させ、老廃物の排泄を阻害する。”というものです。興味深い論文ですが、ネットの記事のように「ゾルピデムが脳に老廃物を蓄積させて認知症を引き起こす」と言うにはかなり無理があります。

  1. この論文では、正常なマウスに1mg/kgと5mg/kgのゾルピデムを投与しています。人間でいえばゾルピデム(5mg)を10-50錠をのむ計算になりますが、マウスやラットにはこのくらい投与しないと効果が出ません。ただし、ゾルピデムを10mg /kg 投与するとラットやマウスは歩行困難になります。動物実験では3mg/kgを投与すること多いので、5mg/kgはやや多いと思います。
  • 実際の臨床では、不眠症の人にゾルピデムを使います。人間でも深睡眠の時に老廃物を排泄するならば、不眠症で睡眠がとれない人は認知症になりやすいかも知れません。つまり、たとえ睡眠薬を使っても睡眠をとった方が認知症になりにくい可能性があります。ただし、この場合、深睡眠を減らさない睡眠薬を使う方がいいと思います。
  • 「ゾルピデムが脳に老廃物を蓄積させて認知症を引き起こす」というなら、睡眠薬を飲んでいる人が飲まない人に比べて認知症になる可能性が高いと言う論文があるはずです。これまでの研究では、睡眠薬と認知症の間に関係があるという論文とないという論文があり、結論は出ていません。睡眠薬が認知症を引き起こすと言うためには、不眠のない人に睡眠薬かプラセボ薬を長期間飲んでもらい、両者を比べることになります。そんな研究は倫理上不可能です。つまり、今後も結論は出ないと言うことです。

ここから先は個人的な考えで別の意見もあると思います。

個人的にはゾルピデム(マイスリー)5mg を飲んで良好な睡眠がとれている人は、そのままでいいと思います。不眠が続くよりはずっといいと思います。

また、ゾルピデムを服用することに心理的な抵抗がある人には、エスゾピクロン(ルネスタ)がお勧めです。また、最近では、ベルソムラ、デエビゴ、クービビックなど(オレキシン拮抗薬)の新しい機序の睡眠薬も市販されています。これらの睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬などのこれまでの睡眠薬と異なり、レム睡眠や深睡眠に影響を与えにくいことが知られています。

ただし、ゾルピデム(マイスリー)をベルソムラ、デエビゴ、クービビックなどのオレキシン拮抗薬に変更する時は、内科医ではなく精神科専門医の元で変えた方がいいと思います(一時的にリバウンドや、悪夢をみる事があります)。内科医からゾルピデムを処方されている方は、エスゾピクロン(ルネスタ)1mg に変更する方が簡単だと思います。

2025年4月5日 | Category : 未分類 | Author : wpmaster