精神医学ニュース1

睡眠リズムを整えましょう

体内時計

体内時計は、視床下部の視交叉上核に存在します。視交叉上核にある細胞(時計細胞)は、時計遺伝子を持っているため、蛋白を合成し、結合し、また分解されることを約24時間周期で繰り返しています。そして、この蛋白合成、分解のリズムを信号として身体全体に1日のリズムを知らせます。体内時計は、朝、目から入った光によってリセットされ1日のリズムを作ります。図では、目から入った光が視交叉上核(時計細胞)を経由してさらに室傍核を経由して全身に伝達される様子を示しています。時計細胞は、日中には交感神経の活性化、コルチゾールの分泌、深部体温(脳温)の上昇などによって日中に人を目覚めた状況に維持します。メラトニンは目覚めてから1416時間ぐらい経過すると体内時計からの指令が出て分泌されます。 徐々にメラトニンの分泌が高まり、その作用で深部体温が低下して、休息に適した状態に導かれ眠気を感じるようになります。メラトニンは、体内時計によって分泌がコントロールされていますが、光によっても分泌が抑制されるため、就寝前にメラトニンが上昇する時に強い光を浴びるとその分泌が抑制され睡眠が妨げられてしまいます。


メラトニンの作用

就寝前になりメラトニンが分泌されると(就床時刻の12時間前)、急速に覚醒力が低下します。このため、私たちは夕食後にすっきり目が覚めていても、就寝時には急に眠気を感じるようになります。朝方になると覚醒作用を持つ副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の分泌が始まります。また、脳の温度が自然に高くなります。覚醒前にこうした準備状態が整って朝の目覚めがよくなります。メラトニンは睡眠を促進する作用を持ちますが、明るい光の下では分泌が停止します。静臥して熱放散を促し、メラトニン分泌を妨げないように消灯をした暗い部屋で休むことは、睡眠をサポートする生理機能の力を最大限に引き出す上でも大事なことです。


体内時計をリセットしよう

朝、決まった時間に起きましょう
朝食をとることでリズムを整えましょう
午前中に十分な太陽光を浴びましょう
午前中か、夕方までに運動しよう

睡眠不足の時は、休日の午後に短い昼寝をしましょう
寝る前のブルーライト、あるいは強い光は避けましょう
明るい光は、メラトニンの分泌を抑制し眠りを妨げます。照明は暖色系の照明を用い、明るくしすぎないようにしましょう)
寝る直前に暑いお風呂に入ること、寝る直前のアルコールは睡眠にとって良くありません。飲酒をする場合は適量を夕食と一緒にしましょう。

メラトニンを使いリズムを整える

メラトベル(メラトニン)

6-15歳の神経発達症(ADHD、自閉スペクトラム症)の入眠困難に用います。神経発達症では、寝つきが悪く、朝起き不良になることがあり、日中の眠気を訴えることもあります。寝る前に服薬する方法と、夕方から服用する方法があり、使い方については医師と相談する必要があります。成人の神経発達症にも有効な可能性がありますが、成人への投与は日本では認可されていません。

ロゼレム(ラメルテオン)

メラトニン受容体を刺激するため、メラトニンの作用と同様の作用を有しています。メラトベルと異なり、成人の不眠症に対して保険適応があります。寝る前に使いますが、翌朝眠気が残る場合は投与量を調整する必要あります。
 
メラトニンサプリメント

メラトニンは日本では販売されていませんが、米国ではサプリメントして薬局で購入することが出来ます。成人の発達障害の場合、しばしば寝つきが悪く睡眠リズムが乱れている場合、夕方に少量のメラトニンを服用し、睡眠リズムを正常にすることが出来る可能性があります。メラトニンのサプリは色々ありますが、製品によって品質にばらつきがあり、服用する場合は睡眠の専門医と相談して服用した方が安全です。なお、サプリメントの中ではNature Madeのメラトニンが比較的安全だと考えられています。



月経前不快気分障害(PMDD

月経前になるとひどくイライラして、怒りっぽくなる、対人関係で過敏になる、過食、過眠になる、時にひどく落ち込んだりするが、月経がはじまると嘘のように気分が落ち着く、こうした症状を繰り返す人がいることは、古くから知られていました。しかし、米国の精神医学会によって診断基準がつくられたのは比較的最近(2013年)の事です。

月経前不快気分障害(PMMD)の原因

原因は明らかになっていませんが、黄体期後期におこるエストロゲン、プロゲステロンの減少が関係していると考えられています(下図)。家族にうつ病の人がいる場合、PMMDになりやすいこと、セロトニンの神経伝達を増強する薬物(SSRI)がうつ病にもPMMDにも有効なことから、うつ病とPMMDに共通の脳内脆弱性(病気のなり易さ)があると推測されています。


米国精神医学会の診断基準

ほとんどの月経周期で、月経開始1週間前に以下の5つ以上の症状が出現し、症状は月経開始後数日以内に軽減、月経終了後にはほぼ消失する。

1 感情が著しく不安定
2
激しいイライラや怒りの感情
3
ひどい落ち込み、絶望感、自責感の高まり
4
異様な不安、緊張、興奮、いらだち感仕事・

5 学業・交友・趣味など日常活動への意欲低下
6
集中力低下
7
倦怠感、疲れやすさ、気力の欠如
8
過食、甘いものが異常に欲しくなるなど食欲の変化
9
過眠または不眠

また、これらの症状によって明らかな苦痛が認められ、対人関係、学校生活、仕事などの日常生活に大きな支障がある(症状があっても、日常生活に全く問題がなければ診断しない)。

診断するためには、月経2周期以上にわたり、記録して確認しなければならない。

基礎体温表による記録の例を下の図に示しました。


基礎体温表に、PMMDの症状を記入し、それが生理のおよそ1週間前に始まり、生理が始まると2-3日で消失することを確認します、そしてそれが生理周期に一致して繰り返されることが診断にとって重要です。

月経前不快気分障害(PMDD)の治療

生活習慣を見直す:睡眠を十分にとり、規則正しい生活をする。可能であれば、午前中日光に当たる、適度な運動習慣を身に付け、健康に良い食事をする(野菜を十分にとり、栄養バランスの良い食事をとる、カルシウム、マグネシウムが不足しないように)、カフェイン、アルコールの取り過ぎに注意する、喫煙は控えましょう。

生活上のストレスを緩和する
:認知行動療法、マインドフルネス、ヨガ、アサーショントレーニングなどの技法を用いてストレスを軽減します。過重労働であれば、仕事量を調整する必要があります。

薬物療法

婦人科による治療:低用量ピルをもちいる。排卵を止める少量の女性ホルモンを用いることにより、ホルモンの変動がなくなり、PMMDを予防します。当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遙散、桃核承気湯、女神散、抑肝散などの漢方薬を用いることもあります。

精神科による治療:上記の方法で改善しない場合は、SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)を用います。通常、うつ病に用いる量より少量を、生理の始まる1週間前から投与し、生理が始まったら中止します。PMMDからうつ病に移行する場合もあり、また、うつ病から回復した後にPMMDの症状が残ることもあります。